三角食べって何だろう
「三角食べ」と言う言葉を、なんとなく聞いたことがある人も多いでしょう。また、実際に学校や家庭で、食事をバランスよく残さず食べる、1品ずつ食べる「ばかり食べ」の防止のために、三角食べを指導された人も多いのではないでしょうか。
三角食べはいつから始まった習慣なのか、また、具体的にどのような食べ方を指すのか、そして現在も三角食べが推奨されているのか見ていきましょう。
三角食べは食育の一環として始まった
三角食べは1970年代から学校給食時の食育の一環として始まりました。厚生労働省や文部科学省など国の省庁から、学校に「三角食べを指導するように」と言った通達が行われたという公式な記録はありませんので、各教育委員会や学校で、給食時に子供たちに「三角食べをするように」と指導してきたと言えるでしょう。
富山県の子供たちを対象に実施された生活実態調査「とやまゲンキッズ作戦~健康づくりノート~」では、守るべき食事のマナーとして、食器を持つことや肘をつかないことと並べて「三角食べをすること」を挙げています。(注1)
このことからも、現在でも学校における食育の基本として三角食べを勧めている地域・学校があるということが分かりますが、多くの学校では三角食べとしてではなく、ご飯とおかず、汁物をバランスよく食べるようにと指導されています。
主食→汁物→おかずの順番を繰り返す
一般的に三角食べは、「主食→汁物→おかず」を一口ずつ食べることを指しています。教師に三角食べをするようにと言われて、あるいは家庭で、「ご飯とおかず、汁物を交互に食べるのよ」などと指導されて、自然と三角食べが身についている人もいます。
教師によっては、子供の食べる順序が「主食→おかず→汁物」になっていても、1つのメニューに偏ることなくまんべんなく食べていればOKとすることがありますが、「主食→汁物→おかず」の順じゃなければ認めない教師もいます。
ご飯のときのおみそ汁、パンのときのスープなど、いつでも主食に合う汁物が給食に出れば良いのですが、主食に合った汁物が出ないときは、「ご飯→牛乳→おかず」といった食べづらい順番になってしまうこともあります。
三角食べの3つのメリット
学校や教師側が自発的に三角食べを指導したということは、三角食べには何らかのメリットがあるということでしょう。三角食べの主なメリットとして、次の3つを挙げることができます。
1.食べる順番が決まっているので食べ残しが減る
三角食べをすることで、どのメニューも順番に食べなくてはいけなくなり、特定のメニューだけ残るということを防ぐことができます。また、味が濃いおかずを食べてからご飯を食べたり、味が濃い目のスープを飲んでからパンを食べたりすることで、ご飯やパンといった薄味の主食もしっかりと食べられるようになります。
どの順番で食べても良いと指導してしまうと、好きなメニューだけ食べる子供も増えてしまうことでしょう。すると、子供たちの味覚に合わないメニューが大量に残ってしまったり、見た目がおいしそうではないメニューは、手もつけずに残ってしまうこともあるでしょう。
2.食事をバランスよく食べられる
1つずつメニューを片付けていると、最後の方で食べようと思っていた1品、2品はお腹がいっぱいになって食べられなくなってしまうこともあるでしょう。
特に食が細い子供は、少ない量でも栄養が偏らずに食べることが重要ですので、1品ずつ順番に食べていくよりは、三角食べをしてすべてのメニューに箸をつけることが良いと言えるのです。
3.口中調味で味覚が発達する
ご飯やパンなどの主食は、それ自体にはほとんど味がついていませんので、単体で食べることを好む人はあまりいません。味がついているおかずや味がしっかりとついたスープ、味噌汁を一緒に口の中に含むことで、口中調味ができ、味の薄い主食をおいしく食べることができるのです。
また、複数のメニューを同時に口内に入れることで、味覚はより複雑になります。繊細な味付けを味わい分けることも、三角食べによってできるようになるのです。
同じメニューを食べ続けることで、最初に口に入れたときと比べると微妙な味加減が分からなくなってしまうことがありますが、三角食べによって別のメニューを入れることで、一口一口の味を敏感に察知できるという効果もあります。
三角食べの3つのデメリット
三角食べをすることは体に悪いと言われることもあります。三角食べが体に悪いと言われる主な3つの理由を紹介します。
1.食事を食べ過ぎてしまう
給食全部を食べるのなら、どのような順番で食べても摂取カロリーは同じです。ですが、バランスよく食べる量を調節できればいいのですが、ご飯やおかずだけが残ってしまうということもあるでしょう。
ご飯がのこればおかずをおかわりしますし、おかずが残ればご飯をおかわりします。また、順番に食べることで、汁物の前に食べた主食をよくかまずに流し込んでしまうため、消化にも悪いですし、太ることにもつながってしまいます。
食事をルール化することに無理がある
三角食べをすると肉や主食を食べることになりますので、結果として太りやすくなってしまうことがあります。
太らない食事にするために、食べ始めに野菜から食べるという食べ方が流行っていますが、子供によって太りやすい体質やそうでない体質がありますので、すべての子供に同じ食べ方で食べるように指導することは無理があると言えるでしょう。
2.順番を気にして噛む回数が減る
ご飯を食べて汁物を頂く、あるいはおかずを食べて汁物や牛乳を飲む。このような行為を繰り返すことで、ご飯やおかずをしっかり噛まずに、汁物や牛乳で流し込んでしまう子供もいます。
噛むことは消化吸収を促進するだけでなく、脳に刺激を与え、記憶力を向上させる効果もありますから、これからもっと頭を使わなくてはいけない子供たちにとって、三角食べをすることで噛む回数を減らしてしまうことは、良いこととは言えないのです。(注2)
3.味覚の感じ方によって苦痛にもなる
繊細な味覚を持っている人や味覚過敏な人にとって、一口ごとに違う食べ物を食べることは、非常に苦痛なことと言えます。
また、ご飯と牛乳、パンと中華風のスープなど、人によっては絶対に合わないと思われる組み合わせもあります。そのような組み合わせにおいてさえ、教師が「三角食べで食べるように」と指導するなら、食事がおいしいものではなくなってしまうでしょう。
文化背景が異なる場合にも配慮すべき
保護者が外国人だったり、子供自身が外国で育った帰国子女のケースも増えています。日本食だけを食べて育ってきたわけではない人にとっては、一口ずつ違う味のものを口に入れる三角食べが受け入れ難いことも多いでしょう。
それに加えて、保護者から受けてきた食育の違いにも配慮すべきです。親によっては「1品ずつ食べる方が正しい食べ方」「スープは冷めないうちに飲むことが正しいマナー」と教えていることもあります。それにも関わらず、学校で「三角食べが正しい食べ方」「1品ずつ食べるのは行儀が悪い」と教えてしまうと、親の教育を根拠なく否定することにもなってしまい、何が正しくて何がまちがっているのか、子供が戸惑ってしまいます。
生活や子供の気質の違いにも配慮すべき
持って生まれた性格や気質から、三角食べそのものを苦痛に感じる人もいます。三角食べをするということは、食べている途中で別のメニューに移るということですし、途中で放り出すのは気持ち悪いと感じる人にとっては辛い食べ方になるでしょう。
また、三角食べは、最後に「ご飯だけ」「おかずだけ」が残らないように口に入れる量を配分しながら食べることでもあります。計画しながら量を加減することが難しい人にとっては、食事そのものを楽しむことができなくなってしまうでしょう。
子供に伝えたい食事の正しい食べ方
三角食べには、食べ残しや摂取するバランスが良くなるというメリットはあるものの、噛む回数が減ってしまったり、個々の文化的・教育的・気質的違いに配慮できなかったりするというデメリットもあります。
では、どのような食べ方が理想的と言えるのでしょうか。三角食べを実践するかどうかに関わらず、子供に伝えていきたい正しい食べ方の基本を3つ紹介します。
料理を一品一品を味わうこと
食べることは生きていくための基本的なことでもあります。また、幼い時に楽しく食べる習慣を身につけ、一つ一つの食べ物が身体の栄養となるということを理解することは、子供が将来にわたって健康で暮らしていくための大きな財産にもなります。
そのためにも、一つ一つの食材を味わい、一品一品の料理を楽しむことが大切です。お皿にのせて出された食べ物をよく見もしないで口に運ぶのではなく、じっくりと見て目で味わい、香りで味わい、口に入れて味わい、噛むことと飲み込むことで味わうように教えていきましょう。
しっかりと噛んで食事すること
せっかく栄養バランスの良い食事が準備されていたとしても、子供がほとんど噛まないで飲み込んでいるなら、栄養分が吸収されにくくなってしまいます。栄養を身体に届けるためにも、しっかりと噛んで食べることが基本であるということを子供に教えるようにしましょう。
例えば、いつも子供が遅くまで寝ているために学校に遅れそうになり、朝食を飲み込むように食べているのなら、10分早起きさせて、食事の時間にゆとりを持たせることができます。
また、夕食をなるべく一緒に摂るようにして、今日あったことや話題になっていることなど、何気ない会話をするようにしてはいかがでしょうか。子供がゆったりとした気持ちで食事をすると、自然に噛む回数が増え、消化不良を防ぎ、栄養の吸収も良くなるでしょう。
作る人の気持ちに感謝すること
どんな食べ物にも作ってくれる人がいて、それぞれの思いを持っています。給食なら、給食のメニューを考える栄養士さんの「バランス良く食べて欲しい」という思い、調理する人の「少しでもおいしいと思って食べて欲しい」という思い、学校に運んでくる人の「これを運ぶことで大勢の子供たちが喜んでくれるはずだ」という思い、給食当番の子供たちの「みんなが満足できる量を渡したい」「食べ残しを減らしたい」などの思い、そして、給食費を払う保護者たちの「お昼ごはんの時間を楽しんでほしい」という思いが詰まっているのです。
そのような大勢の思いを抱えた食事ですから、適当な気持ちで食べることは良いこととは言えません。「これは温かいうちに食べて欲しいと思って用意されたんだな」「この佃煮は、ご飯に合うと思って添えてあるんだな」と作る人の意図を察し、出来る限りその気持ちにそった食べ方で食べることが、作ってくれた人に感謝を示すことでもあるのです。
作る人の思いについて家庭で話そう
給食を食べるとき、子供は作る人の思いを察することしかできませんが、家庭で食事をするときはそうではありません。食事を作ってくれるママやパパと直接話しながら食べられますので、作る人の思いをしっかりと子供に言って聞かせることができます。
「おみそ汁が冷めてしまうとおいしくなくなるよ」「お豆腐をそんなに崩して食べると、周りの人もおいしく感じられないよ」などの簡単な言葉で、子供に作る側としての思いを話して聞かせましょう。そして、このような言葉を頻繁に話すことで、子供たちが自然に食事のマナーを身に着けていくことにもつながるのです。
子供が好き嫌いなく楽しく食べられることが大切
三角食べには良い点も悪い点もあります。三角食べにこだわりすぎてしまうと、食事本来の「おいしく楽しく食べる」という目的がおろそかになってしまいます。マナーを守って食べることを教えつつ、子供が好き嫌いなく楽しく食べられることを第一に考え、家庭での食育をしていきましょう。
どうしても好き嫌いをする場合、三角食べどころか、バランスの良い食事をすることができません。子供が好き嫌いする原因は?一緒に楽しく食べる克服方法を参考にし、好き嫌いをなくして楽しい食事ができるようにしましょう。