愛着形成が発育に与える影響

愛着形成の重要性 – 母と子の信頼を深める愛着の役割とは

愛着形成は、子供の成長に重要だといわれていますが、愛着が形成されないとどうなるのでしょう。ここでは、愛着形成の重要性のほか、母と子が愛着を形成する過程や愛着形成のポイントについてご紹介しています。

愛着形成の重要性 – 母と子の信頼を深める愛着の役割とは

子供との愛着形成の重要性

「愛着形成」とは、子供と養育者との間に心の絆が作られることで、ほとんどの場合、子供のお世話をする時間が長いママとの間に愛着が形成されます。

子育ちの基本は、「乳児期」「卒乳期」「保育園・幼稚園」「10歳以降」の4段階のピラミッドに例えられ、その中でも、愛着や心の安定などの母子の信頼関係が基本となると考えられています。(注1)

子育ちの基本

そのため、1~2歳に構築されるべき母子の関係がしっかりしていないと、ピラミッドが土台から崩れてしまうことから、それ以降の自立や社会性の獲得などに大きな影響を与える可能性があります。

そもそも「愛着」って何?

愛着とは、一般的に慣れ親しんだ物に心引かれる状態を意味しますが、乳幼児の場合、特定の大人から継続的に愛され、大切にされることで深まる情緒的な絆のことをいいます。

子供が親に愛着を持つことは、子供が生きる上で必要なだけでなく、子供の成長にも大きく関わってきます。子供がしっかりと特定の大人に愛着を感じることで、「人を愛する」「人を思いやる」などの人間性の発達にも影響を与えるため、子供の愛着を理解して応える必要があります。

特に、愛着が深まり、情緒が安定することで人への信頼感が育まれることから、乳幼児期の発達における保護者との愛着の形成は重要だとされています。(注2)

愛着形成は子供が生きるための手段

自分では何もできない赤ちゃんは、誰かに自分を守ってもらわなければ生きていけないため、愛着形成が必要となります。もし、赤ちゃんが上手に愛着を形成できないと、誰も赤ちゃんの面倒をみてくれないかもしれません。

しかし、その一方で、ママが赤ちゃんに愛着を持つことができなければ、赤ちゃんは順調に育たない可能性があります。そのため、必ずしも愛着は一方的に形成されるものではありません。

母と子がお互いに必要性を感じて、信頼関係を築くことによって形成されるのです。

愛着が形成されるまでのプロセス

母親の傍で眠る赤ちゃん

愛着の形成は、自分のお世話をしてくれる養育者の判別からはじまり、養育者に自分を守ってもらうために行う「愛着行動」を行うことで完成されます。

さらに、愛着形成の過程で、子供がストレスや恐怖を感じた際に発動される「愛着システム」は、その後の子供の発育に大きく影響を与えると考えられています。

愛着形成はいつから?

イギリスの精神科医ボウルビィが提唱した「愛着理論」では、生後6ヶ月頃から2歳頃までの間、養育者に対して愛着を示すとされています。
子供は、生後半年くらいになると、自分のお世話をしてくれる人を理解できるようになり、徐々にママとの愛着を深め、2歳になると愛着形成がほぼ完成します。

愛着形成の完成までの流れ

愛着形成は、次のような流れで完成されます。

1.生後2~3ヶ月

生後2~3ヶ月くらいの赤ちゃんが愛着を求める対象は、特定の人に限りません。ママだけでなく、お世話をしてくれる人なら誰に対しても、自分を守ってもらうために愛着を求めます。

2.生後3~6ヶ月

生後半年くらいになると、自分のお世話をしてくれる特定の人を見分けられるようになります。さらに、相手の関心を引くための「発信行動」などの愛着行動が見られるようになります。

3.生後6ヶ月~2・3歳

特定のお世話をしてくれる人とそれ以外の人を区別するようになり、養育者以外の相手に不安を感じて人見知りが激しくなります。また、養育者の注意を引くために、泣いたり大声を出したりします。

4.生後3歳~

3歳になり、十分に愛着が形成されると、守ってくれる人がいる安心感から子供は自分の世界を広げるようになります。多少不安なことがあっても「ママがいるから大丈夫」と思うことができます。

子供が見せる愛着行動の種類

愛着行動とは、愛着を持っている対象に自分を守ってもらうために子供が見せる本能的な行動です。愛着行動には次の3つがあります。

1-発信行動

泣いて訴える赤ちゃん

発信行動とは、子供が自分の要求を満たしてもらうために、相手の関心を引いて、お世話をしてもらうために行う行動です。

発信行動の例

  • 泣いたりぐずったり
  • 相手に笑顔を見せる
  • 相手の顔を見つめる
  • 声を出す
  • 手足をバタバタする

2-定位行動

定位行動とは、相手がどこにいるのかを確認する行動です。相手の存在を確認することによって、安心感を得ています。

定位行動の例

  • ママの姿を目で追う
  • 声のする方を向く

3-接近行動

母親に抱きつく赤ちゃん

接近行動とは、自分から相手に近づいて関心を引こうとする行動です。不安を感じた時などに、できるだけ近くにいたいという気持ちから起こります。

接近行動の例

  • しがみつく
  • 抱っこをせがむ
  • よじ登る
  • 後を追いかける

愛着システムの4つのタイプ

愛着行動は、子供がストレスなどを感じた時に発動する「愛着システム」によって引き起こされます。愛着システムは、ママの対応に応じて、子供一人ひとりが独自のシステムを身につけていきます。

次の4つのうち、どのタイプに当てはまるのかによって、正常に愛着が形成されているか判断の目安になるのです。

1.安定型

その名の通り、愛着システムが安定しているタイプです。ママから離されると不安になったり、ママの姿を探したりしますが、ママが戻ってくると喜んで抱きつくなどの行動が見られます。

2.回避型

ストレスや不安を感じてもママに愛着行動を起こさない、無反応のタイプです。ママから引き離されても泣かないのが特徴で、ママの愛情不足が原因で起こることがあります。

3.アンビバレント型

愛着行動が過剰なタイプです。ママから引き離されて泣いても、いざ戻って来るとママを嫌がるのが特徴、構いすぎや放置など親の行動に一貫性がなく、安心感が持てないことが原因で起こります。

4.混乱型

ママから引き離された後で混乱するタイプです。ママが戻ってきた時、親にしがみついてすぐに離れるなど矛盾した行動を見せるのが特徴で、親の子供への接し方に問題がある可能性があります。

愛着形成された子とされていない子の違いは?

母親の傍で笑顔の赤ちゃん

子供との愛着形成は、その後の子供の人間性や社会性へも大きな影響を与えることがあります。幼児期に、両親からたっぷり愛情を受けることで、子供の心の成長につながるのです。

特に、愛着形成がしっかりできた子供は、次のような特徴が見られます。

愛着が形成されている子供の特徴

  • 情緒が安定している
  • 周りへの信頼感が芽生える
  • 他者の気持ちが理解できる
  • 自信をもって行動できる

親と子供との間の愛着が深まることは、子供の社会性の基礎となる「自己有用感」の獲得につながります。子供が「自分には守ってもらうだけの価値がある」と感じることが、自分は人の役に立つことができる存在だというゆるぎない自信へとつながるのです。

それに対して、子供の頃に愛情が不足し、愛着形成が出来ていない場合の子供には、次のような特徴があります

愛着が形成されない子供の特徴

  • 自分に自信がもてない
  • 無気力になってしまう
  • 周りを信頼できない
  • イライラしやすい

親との愛着がうまく築けないと、「自分は守ってもらうほどの価値がない人間だ」と否定的に考えるため、その結果、周りの人を信頼できなくなってしまいます。さらに、そして愛着形成がうまくできないと「愛着障害」という症状となって現れることもあります。

愛着形成が子供に与える影響は?

愛着形成が、母と子の信頼関係の構築だけでなく、次のような子供のさまざまな部分で影響が見られます。

精神的な安定

母親に抱かれて安心の赤ちゃん

子供は、常の自分を守ってくれる人の存在を感じられることで、安心感が得られます。「抱っこしてほしい」「構ってほしい」など、自分の欲求が満たされると、自然と気持ちが落ち着くのです。

特に、愛着形成には、子供にとっての「心の安全基地」が重要となることから、子供は、親という自分を守ってくれる安全基地があることで安心して過ごすことができます。

社会性の獲得

愛着形成によって母と子の信頼関係が構築されると、他者との信頼関係が築きやすくなるため、それが、子供の社会性の獲得にもつながります。

社会性とは、集団の一員として身につけておかなければならない性質の一つです。子供が大きくなってから苦労しないためにも、社会性の土台となる愛着形成が大変重要となります。

コミュニケーション能力の向上

母親の額と自分の額をつけて喜ぶ赤ちゃん

愛着形成において重要となるのが、自分がしてほしいことを相手に伝えることです。自分の気持ちを効果的に相手に伝えようとあれこれ工夫をすることで、コミュニケーション能力が育ちます。

愛着行動によって相手が自分に構ってくれたり、してほしいことをしてくれたりすると、子供は愛着行動の楽しさを知ることで、ますますママへの愛着行動が活発になります。

積極性が身につく

子供の愛着形成に必要な安全基地があることによって、子供は、今までと違う世界に積極的に踏み出すことができるようになります。

何かに不安を感じたとしても、心の拠り所である安全基地があることで、子供は自分が守られていることを実感し、ストレスに耐える力も身に付けることができます。

愛着形成の3つのポイント

母と子の間の愛着は、日々の生活の中で形成されるものですが、具体的にはどのようにすればしっかりとした愛着を築くことができるのでしょう。

特に、次のようことを日常的に意識することで、子供との間の愛着を深めることができます。

1-子供の愛着行動に応える

仕事に出かける前に赤ちゃんを抱っこする女性

愛着形成の基本となるのが、子供の愛着行動を見逃さずに、それに対してしっかりと答えてあげることです。子供が欲求を満たしてもらうために愛着行動を起こしても、ママに無視され続けると、次第に子供は愛着行動をしなくなってしまうのです。

「抱っこして欲しい」「おなかが空いた」「眠たい」などの欲求に応じてもらうために、子供はさまざまな愛着行動をママに対して、日々アピールしてきます。

そんな時、ママは愛着行動を察知して、素早くお世話をしてあげると、ますます子供の中でママに対する「自分のお世話をしてくれる人」という認識が高まって、子供のママへの信頼感や存在感が大きくなります。

2-抱っこやスキンシップ

子供の不安な気持ちの解消するための、最も効果的な方法といえるのが抱っこやスキンシップです。ストレスを感じたり急に不安になったりした時に、ママに抱っこしてもらうと、子供は「安心する」「気持ちいい」と感じることで、ストレスや不安が取り除かれます。

さらに、抱っこやスキンシップには、「抱擁ホルモン」や「幸せホルモン」としても知られる、オキシトシンの分泌にも効果があることが広く知られています。

肌と肌が触れ合うことで、オキシトシンの分泌が促されと、多幸感が得られるほか、不安やストレスの緩和にもつながることから、ぐずっている時やご機嫌が斜めの時などに、ぎゅっと抱っこしてあげるだけでも、子供の気持ちが落ち着きます。

3-アイコンタクト

「目は口ほどにものを言う」という言葉がありますが、アイコンタクトには「共同注意」という大人の行動の意図を理解させる働きがあることから、お互いの視線を合わせるだけでも、言葉にはないコミュニケーションを取ることができるようになります。

さらに、別名「幸せホルモン」と呼ばれるオキシトシンは、スキンシップのほかに、目と目を合わせるだけでも分泌が促進されるため、アイコンタクトが効果的なのです。

家事で忙しくて手が離せない時や移動中などの抱っこができない時は、子供とアイコンタクトを取るだけで構いません。子供からママの顔が見えるようにして、しっかりとお互いが見つめ合うと、自然とママとの間に信頼関係を築くことができます。

愛着形成は親子の共同作業です

愛着形成は、単に子供がママに甘えるということではなく、ママと子供の間で愛着を深めることによって初めて信頼関係が確立されて、愛着形成は完了するといえます。

そのため、どちらか一方が愛着を見せるだけではなく、子供が起こす愛着行動に対して、ママが上手に答えてあげることが重要になります。

さらに、子供との愛着はママにしか築くことができないわけではありません。パパが積極的に育児に参加することで愛着形成が可能なことから、父子間の信頼関係を築くことも大切です。

子供から「パパ嫌い!」と言われないためにも、パパ好きになってもらう育児を参考にしてみてはいかがでしょう。