「孤食」とは子供が一人で食事をすること
厚生労働省による子供と食関連の資料内では、「子供がひとりだけで食べる」ことを孤食と定義しています。
広い意味では大人がひとりで食べることも「孤食」ですが、身体と心を育てていく段階である子供がひとりで食事をすることは、自分で自分のライフスタイルを決定する大人の孤食とは違う問題点があります。(注1)
子供の孤食が増えたのは共働き夫婦が増えたから
実際には孤食をしている子供はどれくらいいるのでしょうか。育児休暇制度が整っている企業が増え、子供が小さくても職場復帰してフルタイムで働くママも少なくありません。
帰宅時間が遅くなるため、大人の食事を作りながら先に子供の食事を作って食べさせるなど、家族揃って毎日夕食を食べる家庭が少なくなり、週に数日は子供だけの食事ということもありえないことではなくなりました。
夫婦が共働きだと家族それぞれがバラバラの時間で行動をとることになる
毎日家族全員で食卓を囲み、食事をしている家庭は意外と少ないです。朝は子供たちが起きるより先にパパが家を出てしまったり、保育園や幼稚園、学校の関係で朝、家族が起きる時間がバラバラだったりするため、なかなか朝食を一緒に摂ることは難しいです。
夕食に関して、平日は親が共働きだったり、ひとり親家庭の場合、ほぼ毎日子供だけで食事をする家庭や、たまたま家族全員の都合がつくときだけ一緒に夕食をとる家庭が多いです。
親が仕事で忙しいと家族が一緒にいる時間が取れなくなってしまう
子供が小さいころは育児に専念していますが、3歳前後で保育園に預けて職場復帰するママも少なくなく、その数は5歳を過ぎると仕事を持つママの数はもっと増えていきます。
子供の成長につれて仕事が忙しくなるために、一緒に食事をする時間を取れなくなってしまうママが多く、夕食は一緒に食べるけれど、朝は洗濯をしながら出勤準備をし、バタバタしている中で朝食は子供1人で食べているということも珍しくありません。
孤食は子供にとって5つのデメリットがある
夕食の食卓を囲み、その日あった出来事を家族で楽しく話しながら食べる食事はおいしいものです。1人で食べる孤食は会話もなく、せっかくの食事が味気ないものになってしまいます。
1.家族揃って食事をする機会が少なくなり親子の会話時間が減る
食事時間は貴重な親子の会話時間です。なかなか会話だけの時間を取ることは難しいですし、食事以外の時間に改まって、「ちょっと話そうか」と構えてしまっても、自然な会話になりにくいです。
食事をするという行為がメインである食事の場だと、「今日は学校で何をしたの?」「このお野菜は旬のものだからしっかり食べようね」と、日常のささいなことを自然に話すことができます。
朝も夜も孤食の子供は、日常のささいなことを親と話す機会が持ちずらくなります。もちろん、食事以外のタイミングで話す時間を確保すれば良いのですが、食事の時間を一緒にすることができない家庭では、食事以外の時間を一緒に過ごすことはなおさら難しくなります。
必要最低限のことしか話さなかったり、親子の連絡も携帯電話やスマートフォンを使って済ませたりすることになってしまいます。
2.ひとりで黙々とたべる食事が楽しいと感じられなくなる
食事は、必要な栄養やカロリーを摂取するだけでなく、本来は人間に楽しみを与える行為でもあります。しかし、1人で食事をすると、食事の見た目や味を楽しむ気持ちが持ちづらくなり、ただ単に、食べ物を体内に入れるだけの行為になってしまいます。
誰かと一緒に食事をすること、そして、「おいしいね」と言いながら食事をすることで得られる食事の楽しさを、孤食の場合は得にくくなってしまうのです。
3.注意する人がいないので子供の好きなものだけを食べる
家族や友人と一緒に食事をすると好き嫌いをせずに何でも食べられる人も、1人で食事をするときは自分の好きなものしか食べないということも珍しくありません。
しかし、1人で食事をする子供は、残しても注意する大人がいないこともあり、徐々に自分が好きなものだけを食べるようになります。大人が食事を準備しておいても、嫌いなものは残してしまう子供も少なくありません。
また、小さいときから食事を1人でしてきた子供は、自分で食事を準備するようになっても好きかどうか、お腹が膨れるかどうかだけで食事を選び、食事における栄養バランスの大切さを考慮しなくなることが多いです。
本当は好き嫌いがあっても、「これも食べてごらん、おいしいよ」と声をかけられたり、「好き嫌いしていると元気になれないよ」と諭されたりすることで、好きなものだけでなく身体に良いものをまんべんなく食べることの重要性を学んでいくのです。
4.食事を流し込み気味になるため咀嚼回数の減少と消化不良が起こりやすい
会話をしながら食事をすると食事時間は自然に長くなりますので、食べ物を噛む回数も自然と増えていきます。しかし、会話もなく、ただ単に体内に食べ物を送りこむ作業といった感じで食事を行うと、食事時間は短くなり、食べ物もあまり噛まずに飲み込むようになってしまう場合があります。
しっかりと噛むことは、食べ物を消化しやすい小さく砕かれた状態にするというだけでなく、消化酵素の分泌を多くしますので、二重の意味で消化を促進させる行為なのです。
ですが、飲み込むように食べてしまうと、胃や腸では消化しきれず、栄養が適切に吸収されずに排出されてしまいます。せっかく栄養バランスの良い食事を大人が準備していたとしても、子供の体内に栄養として摂り込まれないまま排出されてしまうことになるのです。
放射線医学総合研究所が実施した研究では、噛むことで脳に刺激を与え、得た情報を記憶する能力が向上することが分かりました。勉強したことをしっかりと記憶に定着させるためにも、しっかりと噛むという行為が大切だと言えるのです。(注2)
5.誰もとがめないためながら食べが増える
食事をしながらテレビを見たり、マンガを読んだり、スマートフォンを操作したりなどの「ながら食べ」をする子供も少なくありません。注意をする大人もいませんので、食事中にふさわしい姿勢やマナーができないようになってしまう子供がたくさんいます。
子供の孤食が増えている原因はどこにあるのか
孤食をすることで、偏食や消化不良などの子供の発育上好ましくない影響があるので、子供と一緒に食事を摂って、食事の楽しさや会話する喜びを子供と一緒に味わうことが理想的だと言えます。
では、なぜ孤食が子供にとって理想的な状態ではないにも関わらず、孤食をする子供が増えているのか、主な原因を5つ紹介いたします。
夫婦共働きの増加で親に時間的な余裕がない
年々共働きの家庭が増えていますので、夕食の時間までに両親ともに帰宅することができない家庭も増えています。また、夕食の時間までに帰宅することができても、洗濯物の取り込みや片付け、家の掃除などの家事をこなさなくてはならないために、子供と一緒に食事ができない親も少なくありません。
仕事が優先になるので帰宅時間が遅くなる
両親ともに仕事をしていて子供と一緒に過ごす時間が短い家庭ほど、夕食を一緒に取れなくなっています。仕事を終えて帰宅し、食事の時間が遅くならないようにと子供1人に食事を摂らせ、その間に家事をするケースです。
ひとり親家庭の場合、どうしても仕事を優先させることになり、子供と夕食を一緒に食べる機会を持ちにくくなります。ひとり親世帯の子供が孤食になりがちなのは、ある意味、当然のことでもあると言えるでしょう。
子供が大きい方が自分で準備ができるため孤食率が高くなる
子供が小中高と大きくなるにつれ、夕食を1人で食べる子供が増えています。子供がある程度成長すると、朝に準備しておいた食事や、作り置き、冷凍食品、または惣菜などを自分で準備できるようになるため、仕事である程度遅くなっても子供1人で食事ができると考えるからでしょう。
子供の塾やお稽古事があるため他の家族と食事時間がずれてしまう
子供の孤食は、親の就業時間の長さだけによって生まれるのではありません。子供が課外活動をすることで、他の家族と同じ時間に夕食を食べることができなくなってしまうことがあります。
子供が小学校の高学年になると、学校から帰ってくる時間も夕方の4時を超えるようになりますので、お稽古事が開始される時間も5時、6時と遅くなり、子供だけ夕食を早めに済ませたり、反対に子供だけ夕食の時間が遅くなったりすることもあります。
受験のための学習塾の中には、平日の授業が4~5時間に及ぶところもあります。学習塾に夕食のお弁当を持って行き、授業と授業の合間に手短に食事を済ませている子供たちも多くいます。
家以外で気軽に食べられる場所が増えている
今はどこでも気軽に食事を手に入れることができます。お惣菜や弁当、お菓子などがコンビニでいつでも手に入りますので、親が食事を作ってくれるのを待たなくても、気軽に空腹を満たすことができます。
また、1人で食事ができる場所も急増しています。カフェやファーストフードだけでなく、かつては1人で入ることは考えもしなかったようなレストランや焼肉屋さんでも、1人用の席が作られ、1人でも気兼ねなく食事をすることができるようになっていることも少なくありません。
中学生や高校生になると、ファーストフード店や焼肉店に友人同士や1人で訪れることも珍しい事ではなくなりました。
体型を気にしてダイエットをする子供が増えている
小学校の中高学年になると、体型を気にする子供が増えます。そして、「親と一緒に食事をすると食べすぎてしまう」「しっかりと食べろと言われるから、一緒に食事をすると残しづらい」などの理由から、親と食事をするのを拒んだり、朝食や夕食を抜こうとしたりする子供も増えてきます。
一緒に食事をしようという意識が希薄化している
子供だけでなく親も、「食事は家族一緒に行うもの」という意識が希薄になっていることが原因のひとつにあります。
元々家族で食事を一緒に食べるという概念が欠落している人もいますし、自分が幼いときに孤食であったため、自分の子供が1人で食べることに抵抗がない人、最初は「一緒に食べなきゃ」と思っていたけれど、子供の孤食に慣れてしまったために抵抗がなくなった人もいます。
子供の孤食はどうしてもダメなこと?
孤食にはさまざまなデメリットがありますが、それを本当に問題視する必要はあるのか、「時代の変化」と「個々の生活リズム」の2つの観点から探っていきましょう。
孤食は時代のながれによりある程度仕方のない部分がある
野菜やお肉といった素材は手に入っても、食事が簡単には手に入らなかった時代には、家庭は「食事を作り、家族に提供する」ための場でもありました。
ですが、現代はわざわざ家庭で食事を作らなくても、手軽に食事を摂ることができる時代です。学校帰りに友だちと食事をする機会も、昔の子供と比べたら格段に多くありますし、家庭で毎食食事ができなくてもある程度は仕方がないものと考え、その分家族の会話を心がけましょう。
現代は家族みんなの生活リズムを合わせることは難しい
仕事や子供のお稽古、塾、クラブ活動など、年齢や立場が違えば生活リズムも大きく変わります。年齢や立場が違う人間が一緒に暮らしていく中で、同じ時間に食事を摂ることは非常に難しいことだと言えます。
子供の孤食は孤独にならないように気遣おう
時代の流れや個々の生活リズムの違いなど、やむを得ない理由で孤食にならざるを得ない子供が増えています。もちろん、食事は家族で摂る方が楽しいですし、好き嫌いも減るなど良いこともたくさんあります。
ですが、一緒に食事をするかどうかよりも、食事も含めた生活全体で子供を気遣うことが、親にとってもっと大事なことです。「おはよう」「いってらっしゃい」「今日は顔色が良いね」などの何気ない言葉がけ、子供の微妙な変化に気付いてあげること、そのようなことが現代に求められている親の役目だと言えるでしょう。
共働きでどうしても孤食になってしまうという家庭では、週末に作り置きをするなど、1品でもいいので手作りのものをたべさせてあげましょう。共働き家庭の料理担当・夕食の支度はどうしてる?体験談15を参考にして、なるべく料理を作りましょう。