自己有用感と自尊感情の違いとは
自己有用感が低いとどうなる?子供の自信を高める5つの方法
自己有用感を獲得することは、子供にどのような影響を与えるのでしょう。また、自尊感情(自己肯定感)とはどんな違いがあるのでしょう。ここでは、自己有用感が高い子供の特徴や、高めるために親がすべきことのほか、自己有用感が低いとどうなるかを分かりやすく解説しています。
自己有用感が子供の自信と社会性を育む
子育て中のママの中には、「自己有用感」という言葉は聞いたことはあるけれど、よく分からないという方は多いのではないでしょうか。自己有用感は、子供の成長の鍵を握る重要な感情の一つです。そのため、周囲の大人は子供の自己有用感を引き出しながら、上手に育てていく必要があります。
自己有用感とは?
自己有用感とは、集団で自分が役立つ人間だと感じとる感情のことで、「感謝してもらえた」「喜んでもらえた」というように、何らかのかかわりがある他人から評価されることによって得られる、他者の存在なしでは得られない感情です
具体的には次のような感情が自己有用感につながります。
自己有用感ってどんな感情?
- 誰かの役に立っていると感じる
- 誰かに必要とされていると感じる
- 誰かが自分に関心を持っていると感じる
- 自分に何らかの役割があると感じる
- 自分がいないとさびしいと感じる人がいる
- 自分がいないと困る人がいる
- 自分の存在を認めてくれる人がいる
自己有用感を獲得することは、「自分でもできる」という子供の自信や集団の一員としての社会性が身につくだけでなく、自分は価値のある人間だということを理解する「自尊感情」を高めることにもつながります。
自己有用感が身につく時期
主に小学校の中学年くらいを目安に取り組みを行うことで、自己有用感は効果的に身につけることができます。特に、一人っ子のお子様や年齢が近い子供と遊ぶことが多いお子様は、この時期に「異年齢交流」を行うことによって自己有用感が高まります。
小学校の3~4年生になると、低学年のお世話をしたり、お手本を見せたりすることで、年長者としての自覚が芽生える時期です。一方で、自分よりも年齢が上の高学年に対しては、お世話をしてもらったり、一緒に遊んでもらったりすることで、「あこがれ」のような感情を持つようになります。
それにより、年下の子供に対しては、「お世話をして喜ばれた」「役に立てて良かった」と思えるようになります。また、年上の子供に対しては、「遊んでもらってうれしかった」「自分もああなりたい」と思うようになることで、徐々に人の役に立つということを意識するようになります。
自己有用感の高い子供とは?
自己有用感が高い子供には、具体的にどのような特徴があるのでしょう。自分が人の役に立つ人間だということを感じている子供には、主に次のような性質が見られます。
積極性がある
自分がしたことによって人から感謝されたり、評価されたりすることによって、さらに人の役に立ちたいと感じるようになります。どんなことをすれば相手が喜んでくれるだろうと、常に思いを巡らせながら、積極的に行動することができます。
人とかかわるのが好き
おもちゃを独り占めしたり、自己中心的な考え方が強かったりすると、なかなか自己有用感を獲得することはできません。困っている子供がいたら、その存在に気づき、声をかけてあげるといった何気ないかかわりも、自己有用感が得られるチャンスだといえます。
思いやりがある
「電車で席を譲る」「一緒に遊んであげる」など、見返りを期待しない行動に対して相手から感謝されることで、自分が人の役に立つ人間だということを実感することができます。相手のために自分は何ができるのかを考えることで、人を思いやる気持ちが育っていきます。
協働性が高い
他者と同じ目標を持ち、人と協力し合いながら実行することができる協働性が高い子供は、一緒に遊んだり作業をしたりする中で、相手を助けてあげて感謝されたり、手助けしてもらった相手に感謝するということを、自然に身につけていきます。
主体性がある
主体性がある子供は、自分で考えて行動することができるのが特徴です。そのため、親や周囲の人から指示されることなく、自ら進んで行動に移します。知的好奇心が高いため、次はこんなことをしてみよう!と楽しみながら行動することができます。
自己有用感が低いと子供はどうなる?
子供は、他者からの評価を得ることで自己有用感が高くなります。反対に、誰からも評価されずに自己有用感が低くなるとどうなるのでしょう?ここでは、簡単に自己有用感が低い子供の特徴を解説していきます。
自分はダメな人間だと感じる
自分は役に立つ人間だと感じられるような経験をしないと、他者からの評価が得られないため、「自分にはいいところがある」「自分のことが好きだ」と感じられなくなります。そのため、自分に自信を持つことができずに、自分をダメな人間だと卑下するようになってしまいます。
自分のことが好きになれない子供は、自分の存在価値がないと感じてしまうことで自暴自棄になり、「困っている人がいたら助ける」「人に迷惑をかけずに行動する」といった、基本的な学校や社会のルールに対する規範意識が低くなる恐れがあります。
うまくいかないとすぐに諦める
自分を必要としてくれる人がいることで、「頑張ろう」と努力することができるのに対して、誰も自分を必要としていない、誰からも期待されてないと感じてしまうと、何事においてもやる気を持てずに、簡単に諦めてしまう傾向にあります。
反対に、うまくいかないことで不満が募るあまり、他者に対して攻撃的になることがあるため、人間関係や暴力行為などには注意が必要です。また、家族関係や友人関係において自己有用感が低いと、自分には居場所がないと感じやすいことから、不登校になるケースも少なくありません。
幸せを感じられない
自己有用感は、大人になってからも大きな影響を与えることがあります。平成24年に行われた内閣府の幸福度に関する研究会の調査によると、「自己有用感が低いと現在の幸福感が低い」という結果が出たことから、自己有用感と幸福感には相関関係や因果関係があると考えられています。(注)
10代の頃は、自己有用感が低くても幸福感が高い傾向にあるため、自己有用感が幸福感に直接影響を与えることはありません。しかし、大人になってから自己有用感が得られないと、自分は幸せではないと感じるようになるため、10代の頃の自己有用感の獲得がとても重要になるといえます。
自己有用感を高める5つの方法
自己有用感を高めるためには、日頃からの親子の関わりがとても大事になります。子供との関わりの中で、次のようなことを意識して向き合うことで、子供の自己有用感を高めましょう。
1-しっかりと愛情を示す
「ママは○○ちゃんのことが大切」「○○ちゃんがいるからママは幸せ」というように、子供に対して愛情を示すことによって、子供は自分の存在が認められていると感じることができます。
誰かのために何かをしてあげることだけが、自己有用感を高める方法ではありません。自分がいることが誰かのためになっている、ということを感じさせることも重要です。日頃から子供に対して無関心にならないように、言葉やスキンシップで愛情を示してあげましょう。
2-異なる年齢の人とのかかわりを増やす
異年齢交流は、自己有用感の獲得や自分の存在価値の認識に効果的なことから、小学校の学習指導要領でも積極的に異年齢集団との交流が進められています。
自分よりも年少の子供、少し年上のお兄さんやお姉さん、近所のおじさんやおばさんなど、さまざまな年齢の人との交流の中での、「人に何かをしてあげる」「人から何かしてもらう」「一緒に何かをする」などの体験を通して、他者への感謝や人とかかわる喜びを感じることができます。
3-親子で奉仕活動に参加する
自分が人の役に立つ存在だということを子供に実感させる方法として、奉仕活動(ボランティア)への参加があります。さらに、親子で参加することによって、達成感を共有することにつながります。
ボランティアと聞くとちょっと敷居が高く感じるかもしれませんが、ゴミ拾いや花壇の整備のような地域ボランティアのほか、社会福祉施設のボランティア、高齢者支援のボランティアなどさまざまです。気軽に参加できるものもあるので、休日を利用して一緒に参加してみてはいかがでしょう。
4-お手伝いなど家庭内で役割を与える
お手伝いによって自分に役目が与えられることによって、自分は家族の一員であることや、自分が家族から頼られていると感じることができます。
手伝いをさせる際は、決して命令口調にならないように注意しましょう。やらされていると感じてやるとあまり効果がありません。難しい家事は一緒にやるなどして、お手伝いをする楽しさや大切さについて教えていくことが大切です。
5-子供が頑張ったことをきちんと褒める
大人は結果ばかりに目がいきがちですが、子供が何かをやり遂げた際は結果だけでなく、子供が頑張ったことについて褒めることも必要です。
たとえ、うまくいかなかった場合でも、頑張ったことが認められると「次も頑張ろう」と思うことができます。また、努力したポイントが褒められることが子供の自信となって、さらにワンランク上を目指すようになるでしょう。
自己有用感と自己肯定感の違いは?
自己有用感と似た言葉に「自己肯定感」があります。意味の違いが分かりにくいため、混同している方は多いのではないでしょうか。二つの言葉には大きな違いがあることから、しっかりと理解しておくことが大切です。
自己肯定感とは?
自己肯定感とは、文字通り自分に対する肯定的な感情のことで、自尊感情とも呼ばれています。人格形成に重要な役割を果たす感情で、情緒の安定にも欠かすことができません。そのため、自己肯定感が低いと、自分に対して否定的になりやすく、自分に自信が持つことができなくなってしまいます。
それに対して、あまり自己肯定感が高すぎると、実力がないのに自信ばかりが先走って、天狗になってしまうことがあります。正しい自己評価ができなくなっているにもかかわらず、他者から低い評価を受けることで、自信を失って心が折れてしまう子供も少なくありません。
自己肯定感と自己有用感は何が違うの?
自己肯定感と自己有用感には次のような大きな違いがあります。
自己肯定感と自己有用感の違い
自己有用感=他者の評価
自己肯定感=自己の評価
自己肯定感と自己有用感は、どちらも他者から褒められたり認められたりすることで獲得し、最終的には自分の自信へとつながる感情ではありますが、自己有用感は他者との関係の中で成り立つのに対して、自己肯定感は自分一人でも成立します。
例えば、自己肯定感の場合は「次のサッカーの試合のスタメンに選ばれた」という単なる自信に留まりますが、自己有用感の場合、「次のサッカーの試合のスタメンに選ばれた。必ず点をとりたい」と、ただ試合に出るのではなく、チームに貢献することが重要だということを理解しています。
自己 有用感 |
自己 肯定感 |
考え方の例 |
---|---|---|
低 | 低 | どうせ足が遅いから、サッカーの試合に出ても自分なんか役に立たない。 |
低 | 高 | 自分は足が速いから、次のサッカーの試合のスタメンに選ばれて当然だ。 |
高 | 低 | 自分よりも足の速い子はいるのに、次のサッカーの試合のスタメンに選ばれた。 出られなかったメンバーのためにも頑張りたい。 |
高 | 高 | 足が速いおかげで、次のサッカーの試合のスタメンに選ばれた。 自分の特技を活かして勝利に貢献したい。 |
自己有用感の重要性
自己評価のみで得られる自己肯定感は、強い自信が身につくとはいえ、社会性は育ちません。それに対して、自己有用感を獲得することは、自信や社会性が育つだけでなく、さらに、そこから自己肯定感の獲得へと発展していきます。
自己肯定感を単独で身につけるよりも、自己有用感を獲得することによって自己肯定感を高める方が、より確実でさまざまな効果が得られます。そのため、教育現場のみならず、人材育成などの場面でも自己有用感が重視されているのです。
子供の自信は日常のちょっとした工夫から
自分の子供に自信を持ってもらいたいと願うなら日常をちょっと工夫してみてください。難しいことではなく子供の話に耳を傾けたり、褒め方をちょっと変えてみたり、声かけやスキンシップをとってみたりとすぐにできることばかりです。
例えば出来たことに対して褒めるにしても、褒め方を少し変えて見るだけでも大丈夫です。お手伝いが出来た時に「お手伝いできるなんて、いい子ね」と褒めるのではなく、「お手伝いしてもらったおかげで、とても助かった」と自分の気持ちを込めことで、役に立ったと感じられます。
ほんの少し親が気持ちを変えるだけで、子供に自信をつけてもらう手助けができます。子供のこれからの成長のために、自己有用感をしっかり伸ばせるように心がけましょう。
参考文献