9歳の壁ってなんのこと?
9歳の壁とは、子供が9~10歳の小学校中学年の時期に、学習面や人間関係でつまずきを感じることです。
物事がうまくいかないことからいつもイライラしている、自尊心が傷つき自己肯定感が低くなるなどの影響がでてきます。子供自身の力で乗り越えることが難しい場面も多いため、子供の様子に応じて、親のサポートが大切になります。
9歳の壁のつまずきは先々まで影響が及ぶので、親として我が子をどうサポートし、乗り越えていく心構えが必要です。
なぜ9歳になると壁にぶつかるのでしょう
9~10歳の頃は、心も体も、思考能力も個人差が大きく出てくる時期です。それぞれの子供の個性がはっきりしてくるのと同時に、その「差」を客観的に捉える力や、抽象的なものの考え方も急激に発達していきます。
その反面、日々の身の回りの変化への混乱が9歳の壁の根本的な原因です。9~10歳の9歳の壁に影響する子供の発達については、以下のような内容があります。
周囲の子供と身長・体重の個人差が大きくなる
これまで他の子とそれほど変わらなかった体つきだったのが、男子では筋力がつき、全体的にがっちりとしてきます。身体面での発達に個々の違いが出てくるので、自分の体格や体型について、周囲と比較して自信を持つことや、その逆にコンプレックスに感じることが出てきます。
9歳を過ぎたころに自我が発達してくる
自分と周囲との違いや差を自覚できるようになるのが9歳を過ぎた頃になります。自分の好み、苦手なものへの意識がはっきりしてくるため、気の合う仲間との仲間意識が強まる反面で、仲間以外のクラスメイトや親に対しては閉鎖的になります。
さらに、抽象的思考能力が急激に発達するため、学習時や人間関係でも抽象的なものや概念的なもののとらえ方がうまくできるようになり、物事を客観的にとらえ、分析・判断できるようになります。
それまでは、性別を問わず仲良くしていたのが、異性に対して意識が芽生えてるため、クラスが男女のグループに分かれることも珍しくありません。
家族よりも友人関係を優先させるようになる
自分と気の合う友達と、そうでもない友達と区別して、気の合う友達との仲間意識を強めます。他人の気持ちを推し量る、場の空気を読む、相手の求めていることを想像するといったことが、うまくできるようになってきます。
親や家庭よりも、仲間とのつながりや秘密をとても重要視するようになります。
9歳ではトラブルが起きたときに対処ができない
仲間意識が強まり、その距離がとても近くなるため、友人関係でのトラブルが発生する機会が増えます。いざそうなったときにトラブルの乗り越え方がわからず、うまく対処ができないことが多く、ストレスを感じやすくなります。
また、学校や普段の生活でコンプレックスや挫折を感じても、自分の中でうまく処理することができないため、いつまでもモヤモヤと引きずりがちになります。
9歳の壁のつまずき場面4つ
9歳の壁でのつまずきや挫折を感じる場面は、主に4つあります。いずれも子供が自分の力だけでは乗り越えることが少し難しいため、親は子供の様子を注意深く観察しておき、いざというときにはすぐに対処できるようにしておきましょう。
1.学習内容が変化する
小学校3年生の学習内容から、抽象的思考能力を問う内容のものが入ってきます。国語や算数などの具体的なものから、社会科や総合学習などの抽象的な概念を考えていく機会が増えます。
抽象的にものごとをとらえ、かみ砕く力の発達が追い付いていない子供の場合は、とたんに学校の授業についていけなくなってしまいます。
2.周囲との個人差が大きくなる
身長や体重の個人差が大きくなってくるのもこのころです。体格や運動能力の差がついてくるために、体格に対してのコンプレックスを感じてしまうことや、運動や遊びの中でできないことや苦手なことへのコンプレックス・挫折を感じることが出てきます。
小学1、2年の頃にはさほど感じなかった運動能力にも明らかな差ができて、足の速さなどを他の子供と比べ、劣等感を抱いてしまうことがあります。
3.友達とのトラブルが増える
気の合う友達とグループを作り、いつも一緒にいるようになるため、特定の友達との人間関係が濃密になる反面、物の貸し借りや約束ごとをめぐるトラブル、ケンカなど、友達とのトラブルが起きる頻度が増えます。
対人スキルがまだ高くなく、トラブル回避やトラブル対応が上手にできないことがあります。
また人間関係を通じて感じるモヤモヤや苛立ちなど、ネガティブな感情の処理に戸惑うことや、気持ちが落ち込むことがあります。
4.周囲と自分を比べられるようになる
物事を客観的に見て分析や判断する力がついてきます。学習や運動で自分の好きなことや苦手なことがはっきり認識できてくるとともに、「クラスのなかでの自分の立ち位置や順位はこのくらい」と意識が芽生えてきます。友達と優劣の比較をすることもし始めます。
自分自身や物事を客観視できるようにはなっても、その結果の受け止めや気持ちの切り替えがまだ柔軟にできるようにはなっていません。
ネガティブなことに対しての受け止めや処理能力が追いついていないため、周囲と比べて自分が劣っていると感じた時などに、必要以上に強い挫折感を感じてしまうことや、落ち込むこと、卑屈な思い込みをしてしまうことがあります。
9歳の壁の乗り越え方
9歳の壁にぶつかることは、ほとんどの子供が経験することです。しかし、壁にぶつかっても乗り越え方さえわかっていれば、9歳の壁を怖がることはありません。
下記の2つのスキルを身につけることで、9歳の壁と言われている、学習面や人間関係でのつまずきを最小限に抑えることができます。
対人スキルを身につける
対人スキルとは、周囲の人と良好な関係を作るために必要な能力のことで、対人スキルが低いと、周りの人とうまく人間関係が築けなくなってつまずきを経験してしまいます。子供に対人スキルを身につけさせるには、多くの人と接する機会を作ることが重要になります。
特に、家族や仲良しの友達以外の、さまざまな年齢の人と関わる中で、相手に話しかけたり、相手の話を聞いたりすることによって、徐々に人との関わり方を身につけていきます。時に子供同士がケンカをすることがあっても、それも大切な人生経験として、温かい目で見守ることも大切です。
家庭の中では、会話のキャッチボールをして、話が一方通行にならないようにします。会話の中で、「そのとき相手や自分はどう思か」などの投げかけをしてあげると、相手の気持ちを考えるスキルを育てることができますし、どうして相手がそう思ったのか、考える力を育てることで、対人スキルを身につけていくことができます。
抽象的思考能力を高める
抽象的思考能力とは、物事の特徴をおおまかに把握する力のことです。抽象的思考能力が身に付くことによって、物事の全体像を広い視野で見られることから、「文章を読む」「計算をする」などの学習への理解力が高まるのです。
抽象的思考能力を身につけるためには、物事を抽象化や具象化する概念を体験させることが大切です。例えば、お絵かきや工作、粘土遊び、ブロックのように、抽象的に捉えたものを具象化する経験を積み重ねることが、抽象的思考能力の獲得へとつながります。
9歳の壁のつまずきに直面したときのサポート
子供が9歳の壁にぶつかってしまったとき、手や口を出さずに、見守ることも大事なサポートです。子供は自分で壁を乗り越える力を持っているので、すぐに手を出さず、そっと様子を見守ることもとても大事なことです。
しかし、あまりにも思い悩んでいる様子があるときには、親が手をさしのべ、次のような方法で、9歳の壁を乗り越えるサポートをしてあげましょう。
学習面でつまずいたときのサポート
学習面では、算数と国語でつまずいてしまうことが多いので、親として、次のようなサポートをしてあげましょう。
算数
算数の少数や分数、文章問題でつまずきを感じる子供が多いです。少数の0.5や分数の1/2という、目に見えにくい抽象的な概念がイメージしにくいことが原因ですから、実際の生活の中で「1/2は1の半分なんだよ」ということを体験させ、実感させる工夫をします。
文章問題は、自分の行動に置き換え考えさせる、問題の内容を実際に目の前で検証してみるといったやり方で理解を導きます。
例えば、りんごを1つ用意し、2つに割ったのが1/2、1/2を2つ合わせるとりんごが1つに戻るので、1だということを目で見て覚えれば、頭に置き換えて考える力がつきます。
国語
国語は「このときの主人公の気持ちはどうだったか?」という心情を推し量る問題が苦手、または作文が苦手、というつまずきです。「心情」の読み取り、推察、アウトプットを非常に苦手とする子が多いのです。
親のサポートとしては、文章の読み込みや、心情を子供と一緒に推察する作業を子供の理解に合わせて丁寧に繰り返し行うことです。
「○○くんがこの子だったらどう思う?」などの投げかけも抽象的思力を養うことに効果があります。
劣等感やコンプレックスでつまずいたとき
周囲と比べてできないことや、自分の短所ばかりを気にしているような場合は、子供の得意なことや好きなこと、長所を話題にして思いっきり褒めましょう。
注意しなくてはいけないのは「△△君よりあなたの方が足が速いじゃない」「××ちゃんよりもテストの点数がいつもいいじゃない」などと他の友達やクラスメイトと比較して話すと、優劣だけで自分や他の人の価値を判断してしまう、価値観の植え付けになってしまいます。
褒めることで子供に自信をもたせることと、合わせて苦手なことをどうカバーしたらよいかということも子供と一緒に話し合い、アドバイスを伝え前向きな気持ちになれるよう持っていきましょう。
人間関係でつまずいたとき
友達との関係で悩んでいるとき、イライラとしているときは親自身の失敗談や、体験を話してあげましょう。上からの一方的な言い聞かせや説教よりは、ずっと子供の心に響きます。
男の子の場合は女の子と違い、母親に友達関係の悩みを打ち明けることは難しいでしょう。そんなときはパパの出番です。男同士の語り合いで、子供に解決の糸口を伝えてもらいましょう。
「みんな誰でも失敗することはある、失敗そのものよりも、失敗したことをどう取り戻すかが大切」ということを伝え、「じゃあどうする?」を一緒に考えよう、というスタンスが子供に安心感と前向きな気持ちを芽生えさせます。
精神的に不安定なとき
目に見えない心の動きや概念を理解し始めると、意味もなく「○○したらどうしよう」と、やたらに不安や恐怖を感じる子がいます。ひどくマイナス思考である、度を超えて心配性な様子がみてとれるなど、精神的に不安定なようであれば親のサポートが必要です。
もともとがネガティブ思考気味の子供には、「物事を悪い方へと考えて怯えるのではなく、悪いことが起こらないようにはどうしたらよいか」を考えることを提案しましょう。
子供が不安や恐怖を感じる根本的な原因はどこにあるかを探ることも、不安の解消には効果的です。例えば、身内に入院や不幸があったときには、精神的に不安定になりますので、それに対するフォローをするようにします。
何がきっかけになっているのかわかれば、親の対処すべきポイントも的確になり、より子供に安心感を与えることができます。
9歳の壁にぶつかったら見守ることが一番のサポート
9歳の壁に限らず、人間は生きていれば色々な壁にぶつかります。そのたびに悩み、どう壁を突破するか、試行錯誤しながら解決していきます。
子供も同じです。子供なりの「壁」を感じ、その都度自分の力で乗り超えようとします。親としてはハラハラとしながらでも子供を信じ、見守ることが1番大切なことです。
そのうえで失敗して落ち込んでいるとき、自分の力ではどうにもならなくなって困っているときには子供自身が解決に向けて行動できるように支えること、これが親の役割ではないでしょうか。
9歳の壁で悩んではいても我が子の力を信じ、親としてできるだけ支えていきましょう。9歳の壁の原因の1つにもなっている運動脳能力の差について、運動神経が悪い子供の苦手意識を克服するコツを参考にして、サポートしてあげましょう。